官公庁のパソコン調達における方法と仕組みについて 2021.10.22
行政のデジタル化が推進されている昨今、官公庁でもIT化の波が押し寄せています。
助成金や補助金・給付金関連の施策をおこなった経済産業省、新型コロナウイルス関連のニュースで頻繁に目にする厚生労働省、教育機関において大きな変革を迫られた文部科学省などが知られていますが、どのようにパソコンを調達しているかご存じでしょうか?これらの官公庁は基本的に民間企業やその他法人から、調達という形でパソコンを取得しているのです。
本記事ではそれぞれの官公庁の調達プロセスや求められるスペック・課題などを詳しく解説していきます。
もくじ
官公庁とは?中央省庁の種類について
「官公庁」とは国と地方自治体を含めた役所の総称です。官公庁のなかでも、国家に関する行政事務を取り扱う機関を「官庁」といいます。
さらに、官庁のなかでも内閣に属する機関を「中央省庁」といい、本記事で取り上げる経済産業省・厚生労働省・文部科学省の3省は、この中央省庁に分類されます。他にも、内閣府・総務省・法務省・外務省・財務省・農林水産省・国土交通省・環境省・防衛省・国家公安委員会があり、中央省庁は全部で1府12省庁で構成されています。
また、公正取引委員会・個人情報保護委員会・金融庁・消費者庁・国税庁・特許庁・気象庁などは、中央省庁の役割を独立させた機関で「外局」と呼ばれています。
中央省庁 | 外局 | |
---|---|---|
内閣府 | 公正取引委員会 個人情報保護委員会 カジノ管理委員会 金融庁 消費者庁 | |
国家公安委員会 | ||
防衛省 | 防衛装備庁 | |
総務省 | 公害等調整委員会 消防庁 | |
法務省 | 公安調査庁 公安審査委員会 出入国在留管理庁 | |
外務省 | ||
財務省 | 国税庁 | |
文部科学省 | 文化庁 スポーツ庁 | |
厚生労働省 | 中央労働委員会 | |
農林水産省 | 林野庁 水産庁 | |
経済産業省 | 資源エネルギー庁 特許庁 中小企業庁 | |
国土交通省 | 海上保安庁 気象庁 観光庁 運輸安全委員会 | |
環境省 | 原子力規制委員会 |
参考:政府広報オンライン
他にも内閣官房・人事院・宮内庁・警察庁・復興庁・デジタル庁・会計検査院などの主要な行政機関が存在しますが、これらは中央省庁や外局には当てはまらない、特殊な扱いとなっています。
官公庁では「入札」によって物品を調達する
官公庁がパソコンなどの物品を調達する際には、「入札」という契約方式を取ることが定められています。これは契約する民間業者を選ぶ際、公平に競争の機会を確保できるようにするためのものです。
入札には「一般競争入札」「指名競争入札」「随時契約」の3種類があります。一般競争入札は参加資格を持った全ての企業・法人が参加できるのに対し、指名競争入札は指名された企業・法人だけが入札可能です。随時契約は競争が見込めない特殊な状況下で選ばれる方式で、入札をおこなわずに直接契約を結びますが、公平性などの観点から、近年では使用されなくなっている傾向にあります。
ここからはコロナ禍で話題にあがることの多かった「経済産業省」「厚生労働省」「文部科学省」を取り上げ、過去事例などについて解説していきます。
(1)経済産業省のパソコン調達プロセスについて
経済産業省はその名の通り、国家の経済や産業をあらゆる面で推進する省庁で、貿易管理・エネルギー関連・特許関連など、幅広い分野の業務をおこなう機関です。全体で7,000人以上の職員が在籍しているうえ、その業務内容の幅広さからも、大量のパソコンを調達する必要があります。2019年度の事例を見ると、デスクトップパソコン11台・ノートパソコン18台の購入と、1台のリース(レンタル)をおこなっていました。また2020年度にはパソコンの他、iPadやディスプレイなども調達しています。
経済産業省を含むほとんどの官公庁では、以下の5つのプロセスで物品の調達をおこないます。
- 案件登録
専用サイトにて案件を登録し、調達関連情報を公示する - 落札者決定
入札後、落札者を決定する - 契約
落札者との契約をおこなう - 検査
納品された物品を検査する - 最終確認
契約書などの最終確認をおこなう
- 案件登録
官公庁が調達をおこなう場合、「調達ポータル」で調達したい物品の情報を公示します。その後、公示された内容・入札方式に応じて、受注を希望する企業が競争入札をおこなうという流れです。入札終了後に内容の精査をおこない、最も条件が好ましかった入札者に契約する権利が与えられます。
案件の登録や落札者選定・契約といった全ての手続きは、電子調達システム「政府電子調達(GEPS)」によって管理され、ほぼ全てのプロセスがインターネット上で対応されています。
(2)厚生労働省ではどのような仕様のパソコンを調達しているか
厚生労働省は医療・求職・生活保護といった、国民にとって身近な問題を扱う機関です。コロナ禍においてはワクチン関連の報道で、その名称を目にすることが多かったのではないでしょうか。
厚生労働省は電子政府の推進を目標としており、「業務・システム最適化」や「情報セキュリティ対策」に力を入れています。パソコン調達の際にも、ハードウェアの合理化やセキュリティ強化・保守を要件としていることが特徴です。
過去の調達事例によると、機種・型番の統一や、同時に提供した機器全般の保守義務を負うことに加え、故障・不具合が生じた場合にはその対応を一元的に受け持つことが要件になっています。また、セキュリティ管理のしやすさを考慮して、対象機種はノートパソコンが主流であったり、何層ものパスワード設定が求められていたりと、管理を徹底していることがうかがえます。
(3)文部科学省のパソコン調達では競争入札が一般的
文部科学省は国の教育や科学技術・学術などの幅広い分野の発展を担う省庁です。以前から、教育現場でのデジタル機器導入を推進していましたが、その傾向は新型コロナウイルスの流行による仕事・授業のリモート化によって、さらに顕著になりました。
教育現場のデジタル化実現に向けて、膨大な量のパソコンを調達する必要のある文部科学省は、基本的に一般競争入札でパソコンの調達をおこなっています。
(4)官公庁がおこなうパソコン調達の課題
官公庁がパソコンを調達する際には、主として一般競争入札による競争がおこなわれます。しかし、この入札方式には課題も存在します。それが「談合」と呼ばれる不正行為です。
談合とは、本来競争をおこなうべき企業や法人が事前に話し合って、正常な競争を阻害する不正行為で、独占禁止法によって規制されています。入札側が事前に受注者や受注金額を取り決めておけば、競争をおこなった場合よりも調達者に不利な条件の契約が生まれてしまいます。官公庁の財源となる税金が、結果として不当に使われてしまうことにもなりかねないのです。
これまでにも談合が発覚した事例は多数報告されていますが、事前に口約束で実現できてしまうということもあり、摘発が難しいうえに罰則も軽くなりやすいのが現状です。
加えて注意すべきは、意図的でなくとも入札に関わる情報を事前に公開することが、談合に当てはまる場合もあるということです。意図的に談合をおこなわないことはもちろん、過失によって談合ととらえられるような軽率な行動をとらないことも大切です。